非常口マーク「緑と白」の違いとは?日本生まれのピクトグラム秘話
非常口 マークを意識せずに通り過ぎる人が大半だろう。駅の通路、映画館、オフィスビルの天井付近で緑色に光るあのアサインメント。だが、煙が充満する暗闇の中で命を繋ぐのは、他でもないこの小さな光だ。普段は何の変哲もない看板に見えるが、その色使いやシルエットには、危機管理の専門家たちが長年積み重ねてきた緻密な計算が隠されている。
私たちが日常で目にする非常口 マークには、実は大きく分けて2種類のデザインが存在する。緑色の背景に白い人物が描かれたものと、白色の背景に緑色の人物が描かれたものだ。直感的に「どちらも同じ避難の標識」と受け取られがちだが、防災上の機能として両者が果たす役割は明確に区別されている。
「緑地に白」と「白地に緑」の決定的な差!避難時に迷わない識別ルール
「背景が緑で人物が白」の標識は、まさに非常口そのものが存在する場所を示している。建物の外部へ脱出できるドアの真上や、安全な階段への出入口に直接掲示されるのがこのタイプだ。ドアを開ければ脱出できるというゴール地点を示す目印である。
対して「背景が白で人物が緑」の標識は、そこが非常口ではなく、「非常口はこちらの方向にある」という避難経路の誘導を意味する。通路やロング廊下の曲がり角、遠くからでも目立つ位置に配置され、矢印とともに避難者を導く役割を果たす。この2つの視覚的差異を知っておくだけで、火災でパニックに陥った際、自分が「出入口に到達したのか」それとも「まだ途中の通路なのか」を瞬時に判断できる。
炎と煙の中で生まれた日本発の「駆け出す男」の知られざる歴史

かつて日本の避難標識は「非常口」という漢字の文字だけで書出されていた。しかし、1970年代に相次いだ千日デパート火災や大洋デパート火災などの大惨事において、激しい煙の中で文字を読むことがいかに困難かが浮き彫りとなった。文字が読めない外国人やパニック状態の犠牲者が相次いだ教訓から、視覚的・直感的に伝わるシンボルマークの開発が急務となったのだ。
1979年、総務省消防庁が主導して公募展が実施された。全国から集まった3,000点を超える応募作の中から選ばれた基本デザインは、一目で「逃げる」という行動を想起させる人物のシルエットだった。文字から直感的なグラフィックへの転換は、日本の防災史における大きな転換点となった。
太田幸男氏のデザインが世界へ:ISO 7010国際標準化への道のり

公募で選ばれた原案を、極限まで機能的かつ美しく洗練させたのが、デザイナーの太田幸男氏である。太田氏は走る人物の脚の角度や胴体の傾き、頭部のバランスを微細にミリ単位で調整した。緊急時の興奮状態にある人間の目にも歪みなく届くよう、徹底的な推敲が重ねられた。
この卓越したピクトグラムデザインは海外でも絶賛され、1987年に国際標準化機構(ISO)によって世界共通の安全標識として正式採用された。現在では国際規格であるISO 7010に組み込まれ、国境や言語の壁を越えて世界中の施設で人々の命を守り続けている。日本で生まれた小さなデザインが、世界標準へと羽ばたいた瞬間だった。
ゲーム『8番出口』から再評価されるピクトグラムデザインの機能美
近年、この馴染み深い案内標識が意外な形で若者世代の関心を集めている。PCゲームプラットフォームのSteamで世界的ヒットを記録したインディーゲーム『8番出口』の存在だ。無限に続く地下通路から脱出を目指すゲームプレイの中で、壁に掲げられた標識や異変の違和感が強烈な没入感を生み出した。
テレビメディアのNHKでも標識デザインの認知構造や認知心理学的な効果が特集されるなど、ゲームをきっかけにピクトグラムの持つ「無意識に人を導く力」が再評価されている。普段は見過ごしがちな通路標識の一つひとつに、人間工学に基づいた高度な意図が込められていることに多くの人々が気付き始めたのだ。
JIS Z 9107規格と防災産業が推進する最新の避難誘導・防災情報
日本のモノづくり現場では、災害時における標識のさらなる進化が止まらない。日本産業規格における「JIS Z 9107」に規定された高輝度蓄光シートの技術開発により、万が一全館停電が起きた状況でも、電気供給なしで長時間明るく発光する標識が普及している。
現代の防災産業は単なる固定標識の設置にとどまらず、AIやセンサー技術と連動した最新のシステムを導入しつつある。火災の発生場所や煙の充満度を検知し、安全なルートへリアルタイムで案内するスマートなシステムが開発され、刻々と変わる避難誘導・防災情報を最適に提供する時代へと突入している。
総務省消防庁が推奨する「命を守る」非常時の判断基準
いくら優れた標識が存在していても、いざという時に人間が正しく行動できなければ意味をなさない。総務省消防庁は、商業施設や宿泊施設を訪れた際、最初に「緑地に白」の非常口標識の場所と、廊下に設置された「白地に緑」の誘導標識の向きを確認しておく習慣を強く推奨している。
煙は上から溜まる性質があるため、視界が遮られた極限状態では、低い姿勢を保ちながら足元や壁面付近に灯る誘導光を頼りに進む必要がある。普段から何気なく眺めているグラフィックの本来の意味を知り、意識をわずかに変えるだけで、生存率は劇的に高まる。次に建物へ入った時、あなたの頭上にある「駆け出す男」の標識の色を、ぜひ一考してみてほしい。 (出典: 非常口 マーク(Yahoo!ニュース))